ライター雑記



「痴漢者トーマス2」のデモムービーが楽しくてたまらない今日この頃。
 一日二回は見ています。朝会社行く前と夜寝る前と。
 発売は来週。遊べる状況になっていればいいのだけれども。



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 若者と老人が剣をとって立ち合った。
 それを一人の男が見物していた。


●見物人の場合

 彼の眼には、しばらくの対峙の後、若者が自ら老人の剣先へ己の身を躍り込ませて死んだとしか見えなかった。


●老人の場合

 老人は、正眼に構えてからしばらく待って、視線と首を動かしただけである。


●若者の場合

 刀を正眼にとった老人に対し、彼は大上段に構えた。
 若さのみならず体格も、彼の方が老人を圧倒している。
 故に、これで正しい。
 はるかな高みから、落岩の勢威をもって叩き潰す。
 大なる者が小なる者を相手取るに、小細工は有害無益。
 堂々と構え、後は機を待つだけでよい。
 それも間もなく訪れる。
 老人の正眼は端麗の極。
 非の打ち所なく美しく、打ち込む隙など何処にも見えず。
 しかし、そうであればある程に。
 ただ構え続けるだけの所作が、老体から体力を吸う。
 活力抜群の壮者にとってさえ、一つの構えを取り続けるのは難儀なもの。
 増して老身であるなら、いかほどの時を耐えられよう。
 見れば瞭然。
 老人の額には、早くも汗の珠が浮かんでいる。
 剣先に、瘧(おこり)のようなわずかな震えが見えるのは、今はまだ錯覚であろうか。
 だとしても、事実が追いつくに長くは掛かるまい。
 いずれ、老人は構えを崩す。
 その機に、打ち込む。
 あるいは、痺れを切らせて突き掛かってくるやもしれぬ。
 ならばその一刀を打ち落とし、返す刀で首刎ねるのみ。
 どちらであれ、彼は勝つ。
 老人の汗がまた一粒増えた。
 切先の動揺は、もはや見誤りではあるまい。
 崩れる。
 老人はもう、崩れる。
 勝機は至近。
 否、
 今こそ、


 ――老人が、視線を、ついと上向けた。


 しまった。
 不覚。
 視線に、つられた。
 彼もまた、刹那、視線を空へ投げてしまった。
 無論、何もない。
 単純な、仕掛け技。
 それに引っ掛かってしまった。
 隙を見せてしまった。
 視線を引き降ろす。
 いかん。
 老人の顔が、大きい。
 そこに先瞬までの霞んだ眼差しは既になく、代わってきつと見開かれた両眼がある。
 押し寄せてきているということだ。
 突き込んできているということだ。
 出遅れた。
 いや。
 いやいや。
 まだ勝敗は決しておらぬ。
 所詮は老いた体の刺突。
 手元が狂いもしよう。
 身体を穿たれようとも、正中線を外さば、何ほどのことやあらん。
 構うな。
 打ち込め。
 総身の力をもって斬り下ろせ。
 我が剣は老人の頭蓋を斬り割る。
 疑いなく一太刀で仕留める。
 手傷は負うが、それで勝つ。
 故に。
 迷わず。

 斬る――




●再び、見物人の場合

 彼は、自分が見たものを、もう一度思い返してみても、

 老人が視線をふと上に向けた刹那、若者もつられて上を仰ぎ、
 その間に老人が首を前へと突き出し、
 視線を戻した若者は、それを見るや、老人に飛び掛かり、
 ぴたりと正眼に据えられていた老人の刀で、自らの鳩尾を貫いた。

 ……という、見たままのことしか、わからなかった。




●最後に老人、語りて曰く

 これ猫切りの極意なり。
 猫は切らず、追わず、彼より我へ懸からせて、刺し貫くものなり。


真の最終回
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最終回
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