Interview:インタビュー

『君と彼女と彼女の恋。』サウンドトラック付オフィシャルワークス「君と彼女と彼女の響。〜ラフとBGMとイイワケの本。〜」より抜粋 ライター“大樹連司”氏のコメント

出典:サウンドトラック付オフィシャルワークス「君と彼女と彼女の響。〜ラフとBGMとイイワケの本。〜」より抜粋

もうネタバレを見ちゃったあなたが、
それでも『ととの。』をプレイするべき理由。

 発売と同時に(いや、その省スペースなパッケージで、発売以前から?)話題を呼び、瞬く間に初回版が店頭から姿を消してしまった『君と彼女と彼女の恋。』。この度、8月30日にようやく通常版が発売されるそうである。
 だが通常版販売まで、まるまる2ヶ月という期間は、やはり、長かった。なかには「そんなに待てねーよ」と、ネタバレを見てしまった方もいるのではないか。あるいはネット上の熱い感想でこのゲームのことを知り、「ああ、ネタバレ見る前にプレイしておきたかったなー」なんて残念に思っている方も多いのではないか。
 筆者は、そんな皆様に、それでも、『ととの。』をプレイする価値は十分にあるとお伝えするために本稿を書いている。

 大丈夫。
 ネタを知っていても、『ととの。』は十分に衝撃的である。
 2年半前、『アザナエル』がマスターアップした直後の下倉先生から「次こんなゲーム作るんですよー」と直々のネタバレをくらった筆者が言うのだから、間違いない。
 いや、正直に言えば、試遊版を頂いた時は「できればまっさらな状態でプレイしたかったなぁ」と筆者も思った。
 何せ、ネタはもちろん、このゲームに込めた意図やらテーマやらまで、下倉先生から伺ってしまっているのである。これ以上のネタバレはない。筆者には『スマガ』のノベライズという大役を仰せつかった過去もある。あの大作を文庫本3冊にまとめる過程を通じ、下倉先生の「作家性」は大まかに理解していたつもり……になっていた。
 そんなわけで、筆者は、既読のミステリを頭から読み返す時の感じというか、原作付きアニメを見る時の感じというか、とにかく「どこまでやれているか、お手並み拝見」と、言葉は悪いが、若干、上から目線でプレイに臨んだのである。

「君に、言っているんだよ」

 結論から言えば、まったく甘かった。
 筆者はすべて知っていた。彼女が、自分がゲームの中のキャラクターだと自覚してしまうこと、プレイヤーキャラクターではなく、プレイヤー自身へと呼びかけてくること——すべて事前にわかっていた。
 だが、彼女の呼びかけは、そんな予備知識など一切、関係なく、筆者を震るわせた。ヤバイ、これはヤバい。ほとんど無意識的に、彼女から逃げようとメニュー画面を開けば、そこにも彼女はいた。逃げられない。セーブデータも消されてしまった。もうやり直せない。筆者の行動が、すべて完全に美雪に先読みされているという、この衝撃。美雪が、こっちを、見ている。

 当然だが「知っていること」と「体験すること」はまったく別物である。そんな当たり前の事実を、しかし、こうしてわざわざ書かずにはいられない程、『ととの。』というゲームは、濃密な体験をユーザーに与えてくれる。『ととの。』を端的にまとめれば、美少女ゲームにおけるプレイヤーの特権性を揺るがすメタフィクションであり、それを通じて、モニタの中にいる彼女たちと、真に愛し合う方法を探し求めた純愛ものということになろう。
 だが、同時に本作は、ホラーなのだ、と思う。
 ジェイソンが出るとか、貞子が出るとかいっても『13日の金曜日』や『リング』については何も語ったことにはならない。オチを知っていようが、怖いもんは怖い。
 それと同じだ。美雪がこの世界がゲームだと知っていることを知っていたところで、モニタの中から直接に名指され、システムに翻弄される衝撃と恐怖は、揺らがない。
 たかがネタバレ程度でスルーしてしまうのは、あまりにも惜しい。是非、あなた自身で、『ととの。』を体験して頂きたい。

 ところで不幸なことに、先日、筆者はまたしても下倉先生から、新作のネタばらしを受けてしまった。これまた意欲的な作品で、できれば予備知識なしでプレイしたかったが……大丈夫、下倉先生とニトロプラス社なら、今回と同じく予想を遙かに上回る作品を作ってくれるに違いない。期待しています。

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